恋愛日和 いつの日か巡り会うその日まで

「‥‥‥あ‥‥あの」

『櫂さんから聞いてるから
 早く上がって。』


いつのまにか私が床にに落としていたであろう鞄を長い指で拾ってしまうと、
そのまま家の中へ何も言わずに歩いて行ってしまった


「あ、あの!!ちょっと!!」

ガチャン


扉が閉まる音で我にかえり、その場で躊躇しながらも、重たい扉を慌てて開けると靴を脱ぎ捨て彼を追いかけた


駄目だ……ここにいたら……
私はここにいちゃいけない‥ッ‥


ド警告音が大袈裟に脳内に鳴り響き、
一歩いっぽがとても重く苦しい‥‥。


えっ?
うわ‥‥‥なに‥‥この部屋‥‥。
見渡す限りの広い部屋に高い天井と
部屋の中なのに階段があるってことは
ここは‥‥まさかメゾネット!?


同様とは裏腹に何処を見渡しても凄すぎて開いた口が塞がらない……


『こっちに来て座って貰える?』

ツッッ!!


あまりの凄さに目的を忘れてたけど、
感動的な空間にのんびり見とれてる場合じゃない!!


「あ、あの!」


ソファの近くまで近付いた私は、
彼の手から勢いよく鞄を奪い取る


昔と変わらない黒い髪と瞳に、あの時に引き戻されそうで怖くなり、心臓の音が聞こえないようにそれを胸に抱えた


『なに?』


「…ば…バイトの件
 やっぱり断らせて貰えませんか?」


いきなりアポなしで来て上がり込み、
面接もせずやっぱり辞めますなんて
非常識だし人間として最低だと思う


でも‥もう二度と会うこともないと思っていた相手だからこそ今すぐ逃げ出したくて仕方ないのだ。


5年前のあの日、あんなことをしなければ良かったのにって心が苦しくなる。


『‥‥‥嫌だって言ったら?』


えっ!?