会いたくなかった…
会ったらまた許してしまいそうで…
でも少しは大人になっているよね…
柳伊央理(やなぎいおり)
やなぎ堂という老舗和菓子屋に勤める社会人5年目
定休日は火曜日と他の従業員との兼ね合いで週休2日のもう1日はシフトが出るまでわからない
ゴールデンウィークの忙しさから少し落ち着いた5月の終わりの定休日
ベッドの上でゴロゴロゲームをしていた伊央理は母親からの電話に出た。
「伊央理、ばあちゃんが階段を踏み外したの、車回して来て」
「わかった」
部屋着からシャツとジーンズに着替えて軽く髪を結んで家を出た。
最近近くに改装された整形外科、息子さんが後を継いでそこそこ患者は通っている。
診察までに2時間待ち、ばあちゃんは足首の骨折と診断され、固定じゃない方も含めて週1回のリハビリに通うことになり、リハビリの担当の先生に呼ばれるとそこには元彼の大野汰一(おおのたいち)が立っていた…
「ここに勤務してたんだね」
私は目を逸らして話かけた。
彼は頷くと車イスにのっていたばあちゃんに話しかけ始めた。
これからのリハビリの予定と火曜日の私の定休日の日に連れてくる事が普通の理学療法士と患者の付き添いの会話だった。
※
汰一が高校三年生の部活を引退した時期だった。
実は同じ競技をしていて小さい時から同じクラブチームだった2つ年下の汰一は高校に入るまで携帯を持たせてくれない家でクラブに来ている時にしか話せない状態で強豪校に進学するとクラブチームからも卒業、もちろん私も既にクラブチームからは卒業していた。
たまたまお正月にクラブチームの卒業生が集まる機会があり、LINEを交換、それから毎日のようにLINEがくるようになっていた。
部活を引退した汰一は通話で私に付き合ってと告白をしてくれた。
もちろん私も嫌ではなかったしOKはしたがその話の中にクラスの女子が積極的でと私に話してくるのだ…
正直少し天然な汰一、それは小さな頃からわかっていたがいつも私に寄って来ていたからそういう話を聞いても友達だろうと軽く考えていたが、ある日汰一の母親にそのクラスメイトの事がばれたと電話が来た。
「でも友達でしょ?」と私は言ったが母親がLINEをチェックしているらしいとわかり私とのLINEは全部削除している事を知ったのだ。
実は汰一の高校の部活は恋愛禁止だったのだ。それを汰一の天然さを心配した母親はチェックをしていたらしいと聞いた。
それから1ヶ月後に汰一から母親にバレて別れなさいと言われたとLINEが来た。
高校を卒業するまでは部活動も所属だからダメということが理由らしい…
私とのLINEを汰一は消すのを忘れていて寝ている間に見られたらしいのだ。
その頃は好きとか会いたいとかをLINEで送りあっていたからそういう理由なら仕方ないと1度汰一とは別れた。
元々汰一とは家が遠くほとんど会うことが出来なかった。
汰一はいつも高校も父親に送ってもらい登校していた。
もちろん帰りも父親か母親のどちらか…でもそれは汰一の兄も同じ競技の道を進み、交通に不便な所に住んでいて父親が仕事に行く前に高校に送るという毎日
親の言うことは絶対という家庭だった。
「ごめん、卒業するまで待って」と言われた私はとりあえず「わかった」と返事をした…
私も自分の仕事の方も忙しかったし、会社には若い男性もいなくて出会いもなかったから待つつもりでいたのだ。
そして卒業して汰一は理学療法士の専門学校に4年行く事を決めていた。
家の近くに3年の専門学校もあったが少しでも私の近くに行けると選んでくれたらしいが表向きは自立できるようにと親には説得したらしい…
でも専門学校でも親の送り迎えは続く…
どっちの方が自由だったのか今となってはわからない。
免許も取らせてもらえないみたいだし
汰一の両親の仕事の都合で電車とバスを乗り継いで帰る事がたまにあり、その時に私の休みが合えば自由な時間ができて会うことができ、正直体の関係もその時にホテルで経験した。
あまり会えなかったけど付き合いは順調だと思っていた。
遠距離恋愛ほどに何ヶ月に1回しか会えなかったが1年続いた後、3月に汰一の誕生日の少し前にまた別れの連絡が来たのだ。
今回は親ではないのはわかっていたし、なんなら小さな頃から私の事は知っているご両親だ、だから汰一の高校の時は仕方ないと思っていたし…
聞けば同じ専門学校の同級生に告白されたと言うのだ。
まあ汰一はイケメンだし、結構女の子とも話せる方なのは昔から知っているが、その時にグイグイ来てくれる子が好きなんだと思ったし、私が積極的じゃないから楽しくなかったのかなとか色々考えちゃって…自分からあっさりと身を引く事にした。
身近にいる子に汰一は惹かれていくんだ…
いつの間にかSNSも見るのがつらくなりフォローを外した。
しばらくすると向こうも私を外していたからもう終わったと思った。
こんなに簡単に会いもせずに別れるんだとしばらく落ち込んだが仕事が忙しくなってきた私は切り替えていたのに…
何でまた出会ってしまったんだろう…
※
汰一のばあちゃんへの説明が何も頭に入ってこない…
次回のリハビリの予約票を汰一から渡された。
車イスを私の車まで押してくれて笑顔で見送ってくれた。
仕事用の笑顔だ。
長年の付き合いでそれはわかった。
次の週の火曜日の夜に汰一からLINEがきた。
“来週の火曜日の仕事終わりに1度話さない?“
どうしよう…
“いいけど“
返事をしてしまった。
曖昧で終わってたからよ、うん、ちゃんと話をしなきゃねと自分に言い聞かせた。
火曜日の夜、迎えに行くよと車の免許を取った汰一が来てくれた。
近くのファミレスに行き1番奥の席に座った。
「ちゃんと理学療法士になったんだね」
「うん、大変だったけどなれたよ、伊央理は休みが火曜日って事は仕事も変わってないんだな」
「おじいちゃんの店だからそんな簡単に辞めれないよ(笑)」
私普通に笑えてる?
「何かさ、ちょっと運命かもって思わなかった?就職が決まった時には伊央理の家に近いんじゃねって思ったよ」
「そんなの…私は聞いてないもん」
「…そうだな、ごめん」
運ばれてきた食事を口に運ぶ。
フゥフゥと熱々のグラタンを冷まして食べていると汰一に見られていた。
「超猫舌なのに、いつもグラタン頼むんだよな(笑)まあ可愛いけどさ」
「…だって、好きだもん…」
数えるほどしか食事もしてないのに、憶えてくれている。
少し嬉しかった。
「伊央理は彼氏は?」
「いないよ、汰一と別れてから誰とも付き合ってない…あっ、別に重いとか思わないで、出会いがないだけだから、汰一こそ前の彼女と続いてるの?」
「うーん、いつだっけ?」
「専門学校に入った時の彼女だよ、私を振ったくせに憶えてないの?」
「ごめん…半年くらいで別れたかな」
「えっ」
「合わなかったかな、今は違う病院の看護師の子と付き合ってる」
「ふーん、また積極的にこられたんだね」
「何でわかるの?」
「はぁ、自覚ないんだね、何も変わってない」
「単純に嬉しいかな、兄貴と比べられてきたからさ、自分にこられると好きになっちゃうんだよな」
「私があれだけ比べなくてもいいって言ってもわかんなかったのに、人の意見は聞けるんだね」
少し嫌味に聞こえたかな?チラッと汰一を見ると水を飲んでいた。
「だって、伊央理は兄貴を知ってるじゃん」
「でも、私が選んだのは汰一だった」
「そうだけど…」
しばらく沈黙が続いた。
「もし、もしね、私が積極的だったら…別れたくないって言ってたら続いてた?」
「正直わからない…伊央理の事は嫌いじゃないよ、落ち着くし、可愛いし、でもあの頃の俺は自分を好いてくれる子が嬉しくて、付き合ってみたいと思ってたんだよな」
「最低…」
「親のプレッシャーからも解放されたかったし、何もかもが新鮮で色々経験したくて…もう少しお金が貯まったら一人暮らしをしようと思ってるんだ」
「ふーん」
「遊びに来てよ(笑)」
「はぁ?彼女いるのに無理!」
「えー、きっと別れるよ」
「何でそんないい加減に付き合うの?彼女が可哀想でしょ」
「いい加減とは思ってないよ、ちゃんとその時は真剣だよ、でも気持ちが冷めるんだから仕方ないよ」
「冷められた女の気持ちも考えなよ」
トイレと言って私は1度席を立った。
はぁ…私と別れてから何人とも付き合ってるんだ…
知りたくはなかったな、何で誘われてきちゃったんだろ…私…帰ろう
席に戻るとお帰り〜と言ってくれた。
「そろそろ帰ろかな」
「えっ?もう帰る?」
「だって食事終わったし」
私は財布を出すと、俺が出すからいいよと止められた。
「何で?奢ってもらおうなんて思ってないよ」
今までも私が仕事していたし、汰一が学生でバイトもしてなかったから私が出してきた。
「あのさ…俺が自分勝手だったのはわかってるんだけど…」
うん、それは昔から…付き合う前から知ってる。
だから年上の私が後輩に対しても色々と言い聞かせていた事もあったし、練習後の後片付けも汰一は私に寄ってきて、話してきていた。
一人っ子の私はどこか汰一を弟のように扱ってきたのもあるかもしれないと別れた時に考えたし、年上だからこそ大人しく身を引いたのもある…
「伊央理といると居心地がいいんだ、やっぱり伊央理が好き…付き合いたい」
「…何も変わってないね、汰一」
「え?」
「やっぱり甘えがあるよ、私はまた次の彼女のキープになるんじゃん」
「ちがっ…」
「それなら彼女のいない状態で言って欲しかった!」
「ご、ごめん…」
「告白されて前の彼女と別れるっていうループを繰り返す限り私は無理だから…」
私は千円札をテーブルに置いた。
「伊央理が好きなんだよ」
「それならちゃんと自立して、よーく考えて…誰と一緒にいたいのか、誰が大事なのか!」
「わかった…」
「私も前に話し合わなかったのは悪いけど、今回はちゃんと言わせてもらうよ、汰一の為にならないからね」
私は立ち上がって歩いて帰ろうと1歩踏み出すと送るからと言ってお金を私の手に握らせレジで汰一は2人分を払ったのだ。
車に乗ると、とりあえずばあちゃんが完治するまでにちゃんと考えると言われた。
私はわかったと返事をした。
「送ってくれてありがとう、またね」
はっと口を押さえた。
無意識にまたねと言ってしまっていた事に…
汰一は笑って「またね」と言って帰って行った。
しばらく家の前に立ち尽くした。
また、汰一といたいと私は思ってるの?
少し口角があがり玄関を開けた。
「ただいまー」
会ったらまた許してしまいそうで…
でも少しは大人になっているよね…
柳伊央理(やなぎいおり)
やなぎ堂という老舗和菓子屋に勤める社会人5年目
定休日は火曜日と他の従業員との兼ね合いで週休2日のもう1日はシフトが出るまでわからない
ゴールデンウィークの忙しさから少し落ち着いた5月の終わりの定休日
ベッドの上でゴロゴロゲームをしていた伊央理は母親からの電話に出た。
「伊央理、ばあちゃんが階段を踏み外したの、車回して来て」
「わかった」
部屋着からシャツとジーンズに着替えて軽く髪を結んで家を出た。
最近近くに改装された整形外科、息子さんが後を継いでそこそこ患者は通っている。
診察までに2時間待ち、ばあちゃんは足首の骨折と診断され、固定じゃない方も含めて週1回のリハビリに通うことになり、リハビリの担当の先生に呼ばれるとそこには元彼の大野汰一(おおのたいち)が立っていた…
「ここに勤務してたんだね」
私は目を逸らして話かけた。
彼は頷くと車イスにのっていたばあちゃんに話しかけ始めた。
これからのリハビリの予定と火曜日の私の定休日の日に連れてくる事が普通の理学療法士と患者の付き添いの会話だった。
※
汰一が高校三年生の部活を引退した時期だった。
実は同じ競技をしていて小さい時から同じクラブチームだった2つ年下の汰一は高校に入るまで携帯を持たせてくれない家でクラブに来ている時にしか話せない状態で強豪校に進学するとクラブチームからも卒業、もちろん私も既にクラブチームからは卒業していた。
たまたまお正月にクラブチームの卒業生が集まる機会があり、LINEを交換、それから毎日のようにLINEがくるようになっていた。
部活を引退した汰一は通話で私に付き合ってと告白をしてくれた。
もちろん私も嫌ではなかったしOKはしたがその話の中にクラスの女子が積極的でと私に話してくるのだ…
正直少し天然な汰一、それは小さな頃からわかっていたがいつも私に寄って来ていたからそういう話を聞いても友達だろうと軽く考えていたが、ある日汰一の母親にそのクラスメイトの事がばれたと電話が来た。
「でも友達でしょ?」と私は言ったが母親がLINEをチェックしているらしいとわかり私とのLINEは全部削除している事を知ったのだ。
実は汰一の高校の部活は恋愛禁止だったのだ。それを汰一の天然さを心配した母親はチェックをしていたらしいと聞いた。
それから1ヶ月後に汰一から母親にバレて別れなさいと言われたとLINEが来た。
高校を卒業するまでは部活動も所属だからダメということが理由らしい…
私とのLINEを汰一は消すのを忘れていて寝ている間に見られたらしいのだ。
その頃は好きとか会いたいとかをLINEで送りあっていたからそういう理由なら仕方ないと1度汰一とは別れた。
元々汰一とは家が遠くほとんど会うことが出来なかった。
汰一はいつも高校も父親に送ってもらい登校していた。
もちろん帰りも父親か母親のどちらか…でもそれは汰一の兄も同じ競技の道を進み、交通に不便な所に住んでいて父親が仕事に行く前に高校に送るという毎日
親の言うことは絶対という家庭だった。
「ごめん、卒業するまで待って」と言われた私はとりあえず「わかった」と返事をした…
私も自分の仕事の方も忙しかったし、会社には若い男性もいなくて出会いもなかったから待つつもりでいたのだ。
そして卒業して汰一は理学療法士の専門学校に4年行く事を決めていた。
家の近くに3年の専門学校もあったが少しでも私の近くに行けると選んでくれたらしいが表向きは自立できるようにと親には説得したらしい…
でも専門学校でも親の送り迎えは続く…
どっちの方が自由だったのか今となってはわからない。
免許も取らせてもらえないみたいだし
汰一の両親の仕事の都合で電車とバスを乗り継いで帰る事がたまにあり、その時に私の休みが合えば自由な時間ができて会うことができ、正直体の関係もその時にホテルで経験した。
あまり会えなかったけど付き合いは順調だと思っていた。
遠距離恋愛ほどに何ヶ月に1回しか会えなかったが1年続いた後、3月に汰一の誕生日の少し前にまた別れの連絡が来たのだ。
今回は親ではないのはわかっていたし、なんなら小さな頃から私の事は知っているご両親だ、だから汰一の高校の時は仕方ないと思っていたし…
聞けば同じ専門学校の同級生に告白されたと言うのだ。
まあ汰一はイケメンだし、結構女の子とも話せる方なのは昔から知っているが、その時にグイグイ来てくれる子が好きなんだと思ったし、私が積極的じゃないから楽しくなかったのかなとか色々考えちゃって…自分からあっさりと身を引く事にした。
身近にいる子に汰一は惹かれていくんだ…
いつの間にかSNSも見るのがつらくなりフォローを外した。
しばらくすると向こうも私を外していたからもう終わったと思った。
こんなに簡単に会いもせずに別れるんだとしばらく落ち込んだが仕事が忙しくなってきた私は切り替えていたのに…
何でまた出会ってしまったんだろう…
※
汰一のばあちゃんへの説明が何も頭に入ってこない…
次回のリハビリの予約票を汰一から渡された。
車イスを私の車まで押してくれて笑顔で見送ってくれた。
仕事用の笑顔だ。
長年の付き合いでそれはわかった。
次の週の火曜日の夜に汰一からLINEがきた。
“来週の火曜日の仕事終わりに1度話さない?“
どうしよう…
“いいけど“
返事をしてしまった。
曖昧で終わってたからよ、うん、ちゃんと話をしなきゃねと自分に言い聞かせた。
火曜日の夜、迎えに行くよと車の免許を取った汰一が来てくれた。
近くのファミレスに行き1番奥の席に座った。
「ちゃんと理学療法士になったんだね」
「うん、大変だったけどなれたよ、伊央理は休みが火曜日って事は仕事も変わってないんだな」
「おじいちゃんの店だからそんな簡単に辞めれないよ(笑)」
私普通に笑えてる?
「何かさ、ちょっと運命かもって思わなかった?就職が決まった時には伊央理の家に近いんじゃねって思ったよ」
「そんなの…私は聞いてないもん」
「…そうだな、ごめん」
運ばれてきた食事を口に運ぶ。
フゥフゥと熱々のグラタンを冷まして食べていると汰一に見られていた。
「超猫舌なのに、いつもグラタン頼むんだよな(笑)まあ可愛いけどさ」
「…だって、好きだもん…」
数えるほどしか食事もしてないのに、憶えてくれている。
少し嬉しかった。
「伊央理は彼氏は?」
「いないよ、汰一と別れてから誰とも付き合ってない…あっ、別に重いとか思わないで、出会いがないだけだから、汰一こそ前の彼女と続いてるの?」
「うーん、いつだっけ?」
「専門学校に入った時の彼女だよ、私を振ったくせに憶えてないの?」
「ごめん…半年くらいで別れたかな」
「えっ」
「合わなかったかな、今は違う病院の看護師の子と付き合ってる」
「ふーん、また積極的にこられたんだね」
「何でわかるの?」
「はぁ、自覚ないんだね、何も変わってない」
「単純に嬉しいかな、兄貴と比べられてきたからさ、自分にこられると好きになっちゃうんだよな」
「私があれだけ比べなくてもいいって言ってもわかんなかったのに、人の意見は聞けるんだね」
少し嫌味に聞こえたかな?チラッと汰一を見ると水を飲んでいた。
「だって、伊央理は兄貴を知ってるじゃん」
「でも、私が選んだのは汰一だった」
「そうだけど…」
しばらく沈黙が続いた。
「もし、もしね、私が積極的だったら…別れたくないって言ってたら続いてた?」
「正直わからない…伊央理の事は嫌いじゃないよ、落ち着くし、可愛いし、でもあの頃の俺は自分を好いてくれる子が嬉しくて、付き合ってみたいと思ってたんだよな」
「最低…」
「親のプレッシャーからも解放されたかったし、何もかもが新鮮で色々経験したくて…もう少しお金が貯まったら一人暮らしをしようと思ってるんだ」
「ふーん」
「遊びに来てよ(笑)」
「はぁ?彼女いるのに無理!」
「えー、きっと別れるよ」
「何でそんないい加減に付き合うの?彼女が可哀想でしょ」
「いい加減とは思ってないよ、ちゃんとその時は真剣だよ、でも気持ちが冷めるんだから仕方ないよ」
「冷められた女の気持ちも考えなよ」
トイレと言って私は1度席を立った。
はぁ…私と別れてから何人とも付き合ってるんだ…
知りたくはなかったな、何で誘われてきちゃったんだろ…私…帰ろう
席に戻るとお帰り〜と言ってくれた。
「そろそろ帰ろかな」
「えっ?もう帰る?」
「だって食事終わったし」
私は財布を出すと、俺が出すからいいよと止められた。
「何で?奢ってもらおうなんて思ってないよ」
今までも私が仕事していたし、汰一が学生でバイトもしてなかったから私が出してきた。
「あのさ…俺が自分勝手だったのはわかってるんだけど…」
うん、それは昔から…付き合う前から知ってる。
だから年上の私が後輩に対しても色々と言い聞かせていた事もあったし、練習後の後片付けも汰一は私に寄ってきて、話してきていた。
一人っ子の私はどこか汰一を弟のように扱ってきたのもあるかもしれないと別れた時に考えたし、年上だからこそ大人しく身を引いたのもある…
「伊央理といると居心地がいいんだ、やっぱり伊央理が好き…付き合いたい」
「…何も変わってないね、汰一」
「え?」
「やっぱり甘えがあるよ、私はまた次の彼女のキープになるんじゃん」
「ちがっ…」
「それなら彼女のいない状態で言って欲しかった!」
「ご、ごめん…」
「告白されて前の彼女と別れるっていうループを繰り返す限り私は無理だから…」
私は千円札をテーブルに置いた。
「伊央理が好きなんだよ」
「それならちゃんと自立して、よーく考えて…誰と一緒にいたいのか、誰が大事なのか!」
「わかった…」
「私も前に話し合わなかったのは悪いけど、今回はちゃんと言わせてもらうよ、汰一の為にならないからね」
私は立ち上がって歩いて帰ろうと1歩踏み出すと送るからと言ってお金を私の手に握らせレジで汰一は2人分を払ったのだ。
車に乗ると、とりあえずばあちゃんが完治するまでにちゃんと考えると言われた。
私はわかったと返事をした。
「送ってくれてありがとう、またね」
はっと口を押さえた。
無意識にまたねと言ってしまっていた事に…
汰一は笑って「またね」と言って帰って行った。
しばらく家の前に立ち尽くした。
また、汰一といたいと私は思ってるの?
少し口角があがり玄関を開けた。
「ただいまー」



