朱の悪魔×お嬢様

「あと二人」

 紅い悪魔がポツリと呟く。

「ひ、あ、あ、ぁ、わあぁぁあぁぁぁぁああ」

 男が恐怖のあまり叫びながら銃を取り出し、紅い悪魔に数発撃つ。

 凜にはなんとなく分かっていた。


 そんなもの


 紅い悪魔には


 意味の無い物、という事を。


 紅い悪魔は弾丸をひらりとかわし、腰から小さなナイフを取り出し、男に刺した。

 叫び声を上げた為に、大きく開かれた、口の、喉の奥に。

 男は目を大きく見開く。

 紅い悪魔は続けて容赦無く、一瞬の隙をも与えず、同じナイフを取り出して腹を貫く。

 深く、深く、

 ナイフが背中を突き抜け、紅い悪魔の手が、腕が、男の身体に埋まる。

 そしてナイフと共に思いっきり腕を引き抜く。

 血がダラダラととめどなく流れ出し、血飛沫が上がり、また、一つの命が消えた。

 紅い悪魔のナイフ、手、腕が紅く染まっている。

 顔も身体も返り血で紅く染まっていた。

「あと…一人」

 紅い悪魔が凜のすぐ近くにいる男を見る。

「く、く、来るなぁ!!」

 男は凜の腕を取っていきなり立ち上がると、凜の側頭部に銃口を突きつけた。

 凜はいきなりの男の行動に驚きつつも、なお冷静だった。


 私を囮にしても無駄。


 彼女は、私を助けに来たんじゃないのだから。


 紅い悪魔は動きをピタリと止める。

 男はしめたとでも言いたげにニヤッと笑い、勝ち誇った声で言う。

「そうだ近づくな。この女を死な」

 男の言葉を最後まで聞かずに紅い悪魔はクスクスと笑い出した。

「な、何が可笑しい!!」

 よく聞く台詞だなぁ、と凜は他人事のように黙っている。

「何が可笑しいか、だと?」

 初めて、いや、二度目だが、ちゃんと聞くのは初めての紅い悪魔の声。

 少し低めの、それでも見た目相応の少女の声。

「…お前のような下衆が触れて良いお方では無いんですよ?」

 諭すように、しかし嘲るような声。