朱の悪魔×お嬢様

 顎を掴まれ、無理やり顔を向けさせられる。

 凜の綺麗な顔を嘗め回すかの様に眺めてくる上條に凜は鳥肌が立った。

「…すみませんが、首が痛いので手を離してくれると嬉しいのですが」

 凜が遠回しに手を離すように言う。

 が、上條は凜の言葉に全く聞き耳を持たず、そのまま話を進めた。

「今日の用件でしたね?今日はちょっと羽須美さんに良い話が…」

「…なんでしょう?」

 凜は眉をひそめながら一応聞く。

「羽須美さん、私の息子の妻になりませんか?」

「は?」

 凜のきょとんとした顔に上條は更にニヤニヤと笑って続けた。

「いや、羽須美さんの実力には本当に感服しておりますよ。でもね、女一人じゃ辛いでしょう?それで私の跡を継ぐ息子と結婚はいかがかなと。羽須美さんの実力を埋もれさせるのも勿体無い事ですし、息子と協力してみるのもいいんじゃないかな?羽須美さんみたいな美人さんは私が貰いたいくらいだが…残念なことに私にはもう妻がいるからね」

 残念がる前に自分の歳を考えろ、と言う言葉を凜はぎりぎりの所で飲み込む。

 予想はしていた。

 きっと上條は凜の事が邪魔なのだろう。

 せっかく父が亡くなり、羽須美財閥と言う大きな邪魔者が取り除かれたと思った矢先に娘の凜がまた邪魔をしようとする。

 だからまだ完全に復活する前に潰してしまおうとしたのだろう。

 ここまでは予想出来た。

 だが予想外だったのは息子と結婚させようとしている事だ。

 確かに凜の実力は敵だと厄介だが、逆に見方にすればかなり有利なものになる。

 凜は冷ややかな目で上條を見返した。

「…申し訳ございませんが、その申し出はお断りさせていただきます。女一人でも大丈夫ですから。…息子さんの結婚相手をお探しなら、他を当たって下さいな」

 それを聞いた上條はフンッと鼻で笑う。

「お言葉を返すようですが、今の貴女に拒否権は無いのですよ?自分が置かれている状況をよ~っくお考え下さい」

「…」

 凜は苦い顔をした。

 確かに自由に身動きの取れない凜が断わった所で意味は無いに等しい。

 今の状況だったらいくらでも凜を脅す事が出来るのだから。