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冷たい床の感触。
凛はふと目を覚ますと、全く見知らぬ部屋にいた。
身体を起こそうとしたが身体が動かない。
いや、身体は動く。身動きが取れないのだ。
目隠しをされていないからいいものの、両手両足はしっかりと縛り付けられている。
解こうと試してみるが体力を消耗するだけだった。
(はぁ…どこかしら?)
顔だけ持ち上げ、部屋をぐるりと見回してみる。
窓がないことから、地下室だろうことは容易に分かった。
これと言った家具は無し。
まるで牢屋か刑務所のようだ。
「お目覚めかな?羽須美さん」
突然扉が開き、声と共に部屋に男が数人入ってきた。
おそらくリーダー格なのだろう50代後半頃の男が一人と、あとはボディーガードらしき男等。
「どうかな?よく眠れたかい?」
男がネットリとした耳障りな声で聞いてくる。
「…えぇ、よく眠れましたわ。上條さん」
凜は決して引かず、堂々とした声で答えた。
男―――上條は凜の答えにニヤリと笑う。
この嫌な笑み、声を凜はよく覚えていた。
父の取引相手の一人、上條は大手会社の社長だ。
何故、こんなくだらない事をするのだろうか?
まぁ、ある程度予想はつくが。
「本日はどういったご用件で?…こんなまねをせずともお呼びして下さればお訪ねしましたのに」
「これはこれは失礼。ちょっと人に知られたくありませんでしたので」
嫌な笑みを浮かべながら凜にだんだんと近づいて来る上條。
凜は精一杯身を引くが無駄な抵抗だった。


