気が付くとかなりの時間が経過していた。

 やっと涙が止まった凜は美玖から身体をスッと離す。

 今更ながらかなり恥ずかしい所を見せてしまったな、と美玖の顔がまともに見れず凜は無言で俯いた。

「大丈夫ですか?」

 美玖が心配そうに凜の顔を覗き込む。

「え、えぇ。ありがとう。…つき合わせちゃってごめんなさいね。疲れたでしょう?」

「いえ、全然大丈夫です」

 精一杯の笑みを浮かべながら手をブンブン振る美玖。

「そう?でも…」

「本当に大丈夫ですから」

「…分かった。ありがとう」

 笑顔でもう一度お礼を言う。

 と美玖が安心したようにホッと息をついた。

 不思議そうに小首を傾げていると、美玖がそんな凜に気付いたらしく微笑む。

「やっと、笑ってくれたなって」

「え?」

「さっきまで、笑っててもどこか寂しそうだったんで…」

 その言葉に凜は驚きに目を見開いた。

 そんな事までこの少女は気付いていたのか。

「でも、やっと笑ってくれました」

 美玖がそう言って小さく嬉しそうな表情を見せる。

 美玖の表情の変化はすごく僅かだが、それでもだんだんと分かってきた。


『私だって、あなたの満面の笑顔を見てみたい』


 そう思うのは我が儘だろうか? 

 でも
 
 すごく身勝手な我が儘だとしても、そう思ってしまう。

 望んでしまう。

 そこで凜はふと視界に時計が映り、その時計が示す時刻に青ざめた。

 時刻はもう7時に近かったのだ。

 そもそもここに来た時間が遅かったのだから仕方ないのだろう。

 が長く引き止め過ぎてしまった。

 しかもその理由が泣いてしまった自分を慰める為、というあまりにも迷惑すぎる理由なのだ。