数分後。

 凜はお茶菓子をのせたお盆を手に戻ってきた。

 ソファの前のテーブルにそれらを綺麗に並べていく。

 美玖は座ったまま目を丸くして固まってしまった。

 “ちょっとした”お茶のはずなのに、並べられたお菓子は豪華という言葉の他にない。

 凜はそんな美玖をまた笑いそうになるのを堪え、「どうぞ」と勧めた。

「い、頂きます…」

 美玖は最初に紅茶を手にする。コクン、と一口。

「…おいしい」

「本当?良かった」

 凜が嬉しそうな笑顔を向ける。

 人にお茶を淹れたのは初めてだったので、心配だったのだ。

「はい、とっても」

 美玖も精一杯の笑顔を返し、そこでふと気付いた。

「あの、この前のお爺さんは…?」

 おずおずと尋ねる。

 多分親戚だと思うのだがここにお爺さんの姿は無く、むしろこの家の中で人を一人も見かけなかった。

 凜の表情が固まる。

「あ、ごめんなさいっ」

 聞いちゃいけない事だったのだ、と直感で気付いた美玖はすぐに謝った。

 凜は暗い表情で首を横に振る。

「いえ、違うの。あのお爺さんは…亡くなったわ」

「え、でも、この前…」

 会ったばかり、と続けようとして言葉を止めた。止まってしまった。

 凜の悲しそうな表情に真実だと悟る。

「私の名前、覚えてる?」

「名前?」

 凜がコクリと頷く。

 美玖は頭を抱えて必死に記憶の糸を手繰り寄せた。

 本人にはかなり失礼だったが、もう会うことは無いと思っていたのだから仕方がない。