今までずっと傍にいてくれた人達、かけがえのない唯一の家族。


 ―――いなくなってしまった…みんな…もう傍には誰もいない…独りぼっちになってしまった…


 ぺたりと床に崩れ落ちる。

 自分でも気付かないうちに自然と頬を涙が伝っていった。

(これから…どうしよう?…誰か、教えてよ…)

「ひっ…ひっく…ひっ…うっ…うぅ…」

 嗚咽を噛み締める音のみが部屋に響く。

 1人ぼっちになって嫌でも実感した。

 私はなんて無力なんだろう?こんなに周りから守られていたんだ…と。

 どうしようもない不安に包まれる。

 凜は数分泣いた後、フラフラと力無く立ち上がって部屋にある電話に向かう。

(ひとまず警察に電話しよう。…電話したら、これからの事を考えよう)

 よろよろと電話に向かって数歩、歩いた時だった。

「っ?!」

 いきなり後ろから腕をねじ上げられ、身動きが取れなくなる。

 突然の事にとっさに動けなかった。全く気配が無かったのだ。

 真後ろにいたにもかかわらず、気付かなかったくらい。

(誰っ?!)

 確認しようにも勿論後ろを振り向けない。

 凜は腕が振りほどけないか試してみるが無駄な努力に終わった。

「動くな」

 冷ややかな感情の全く無い声が耳元で囁かれる。

 それと同時に首筋にヒヤリと冷たく硬い物が触れた。

 見えなくとも刃物だと簡単に予想がつく。

 鼓動が早まり、冷や汗が出た。

 この屋敷で刃物を持ち、その凶器を私に向けるものは、父達を殺した犯人しかいない。

 見つかってしまった。“ヤツ”に。

(…でも、いいわ。―――死にたい。死んで、父様達のところへ行きたい。早く殺して)

 身を硬くして『死』を待ったが、いつまでも首は繋がったままだった。

 カタカタと手が小刻みに震えていることに気付く。何故?

「何で、ためらうの?何で、震えているの?…あなた、恐いの?」
 
 何となく“ヤツ”に訊いていた。

 独り言のような小さな声だったが、真後ろにいるのだから充分に聞こえているだろう。

 ビクッと動揺した事が後ろから、手から伝わってきた。


 図星…か?