触れたい、cross

私の部屋について、台所に食材が入ったエコバッグを置いた、伊織くん。


「ごめんね?重かったでしょう?ありがとう」


伊織くんに告げたら。


「海乃さん、さー?そーゆーときは、『ありがとう』だけでいーんじゃない?」


流し台のヘリに手をついて、振り返りながら伊織くんが言った。


「オレ、『ありがとう』のが、好きー」


抑揚がない、口調。


でもなぜか、伊織くんの言うとおりだと、思った。


「…うん。ありがと」


私のくちびるから素直に漏れたコトバ、に。


「どーいたしましてー」


胸に手を置くジェスチャーで、大業に腰を折ってみせた。


…やっぱり、不思議なひと、だな。


ぶっきらぼうに見えて、伊織くんが放つコトバは、思い遣りに包まれている。