傾国の貴妃

私がルシュドの姫君と呼ばれることが嫌うように、ギルも国王と呼ばれることを嫌う。

私はローラで、ギルはギル。

私たちはそれ以上でも以外でもないはずなのに、周りの人たちがそれを許さない。

私はルシュドの姫君であって、ギルは国王陛下。

そうでなければならない。

その事実は単純なようで、とても難しいこと。


「ローラ、何か良い香りがする」


「そう?さっきシンシアがとても良い香りのお香を焚いてたんだけど、それかな」


「ああ。安心する」


ギルの力強い腕がキツく私の身体を引き寄せる。

私も何だか久しぶりの温もりに自然と頬が緩み、ギルの広い背中に腕を回した。