傾国の貴妃

エリザベート様のその言葉に、ドキリと嫌な汗をかいたのは私だけ。

ギルはふん、と絶対零度の眼差しを送るだけで何も言わない。

張り詰める空気。

そんな中、

――エリザベート様はその赤い唇の端を上げ、小さく笑ったのだった。

綺麗で、思わず見惚れてしまうようなその笑み。

だけどその笑みはまるで凶器。

心臓に突き刺さる刃。







私はまだ知らなかった。

この世で最も尊ぶべきは、何なのかを。

権力の本当のベクトルを。

邑の意義。

国の意義。



――ギル、ごめんね。


私はここでギルを、あなたを突き放すべきだったのに。


私は自分の幸せをただ願ってしまったんだ――