傾国の貴妃

その甘い囁きに思わず頷いてしまいそうだった。

ギルの真っ直ぐな眼差しが、私を射抜くかのように向けられている。

全てをギルに預けてしまいたいと願う私。

駄目だよ、と必死に理性を働かせる私。

相反する2人の私が、同時に私を諭す。

ああ、私は…――


「シンシアが…」


「ん?…ああ、あのメイドか」


急に何を言い出すんだ、とでも言いたげに眉を顰めるギル。


「…シンシアが、今、お風呂を…」


なんとか言葉を紡ぎ出す。


「そんなの後で良い」


「でも、怪しまれちゃうかも……」


「阿呆か。そもそもローラは俺にとってそういう存在だろう?誰が咎めると言うんだ」


「でも、もしかしたら汗とか……」


「別に気にしない」


「でも、でも……!」