傾国の貴妃

「…私、今ギルに抱かれたら、もう離れられなくなる」


引き返せなくなる、その前に。


「…今ならまだ、間に合うから。傷はまだ浅いから。だから…」


――私を解放して。

その言葉が出てこない。

ギルの顔が見れない。

手首は強く抑えつけられていて、抵抗も出来ない。

言葉が出ない。

抵抗だって、したいわけじゃない。

本当は私だって望んでいるの。

ギルの腕の中で見ることのできる、永遠に続く甘い夢を――

だけど、現実は…


「――だから、抱く」


何も言えなくなった私を見計らったかのように、ギルの低い声が耳元で響いた。

びっくりしてその真意を推し量ろうと、そのエメラルドグリーンの瞳を覗き見る。

“だから”というギル。

ギルは小さく笑っていた。