傾国の貴妃

「――え?何のこと?別に何もないよ。心配しすぎ」


とっさに出てきたのは、そんな言葉。

固まった顔の筋肉を精一杯に動かして、笑顔を作る。

上手く笑えてる?

声は震えていない?

ギルの瞳がジッと私を見つめる。


「やだな。何怖い顔してるの」


男のくせして綺麗過ぎるその頬に、触れた。


「でも、ありがとね。心配してくれて…、ありがとう。すっごい嬉しい」


涙が零れないよう、必死だった。

ギルの私を心配してくれるその言葉だけで、満足だった。

私は笑う。

ただ、笑う。

だって、思い知ったから。

私の立場というものを。

ギルの立場というものを。

世間体というものを。

私はルシュドの出身。

ギルの寵愛を受けるべきは、私じゃない。

望んではいけない。

不毛な望み。

不毛な恋心。