傾国の貴妃

「…ギル?」


とくんとくん。

毛布の向こうから感じる、確かなぬくもり。

ギルは何も言わずに、ただ私を抱き締める。

なんだか恥ずかしいのと、どうして良いのかわからないのとでごっちゃになって。

ギルの名を呼ぶことしかできない私。

そんな私に届いたのは、予想もしないギルの言葉だった。


「――心配、した」


ただ、それだけ。

聞こえるか、聞こえないか、わからないくらいの大きさで。

だけど、私の心臓を壊すのには、充分過ぎるほどの言葉。


「ローラの侍女から話は聞いた。お茶会で何があった?話せ」


相変わらずの命令口調。

だけど、優しく響くその声。

それだけで空っぽだった心が満たされるような、お腹いっぱいになるような、そんな感覚。

――もう、充分だと思った。