傾国の貴妃

「…へい、か…?」


「――陛下、だと?」


ポツリと呟いた私の言葉に、わかりやすく眉をしかめたギル。

低い、怒気の含んだその声に、さらに小さくなる私の声。


「だ、だって…ここは外だし…」


誰が聞いているかわからない。

ましてや、さっき姫君たちからの牽制があったばかりだというのに。

こんな所を見られたら、また何て言われるか…


「ふん、知るか」


「し、知るかってそんな!」


「関係ない」


私の事情なんて知るはずもなく、ギルはやっぱりどこまでもギル。

私に拒否権なんて与えたりはしない。


「ローラの部屋に行った。随分、待たされたんだが?」


「え?」


「帰り、遅すぎだろう?」


どうやら、探しに来てくれたらしい。

俯いた私の頭をポンと叩くと、そのままその大きな手は私の手を握り歩き出した。

誰かに見られやしないかと冷や冷やする私とは正反対に、堂々としたギル。

逃げ場を失った私は、ただその広い背を追うしかなかった。