傾国の貴妃

「何をしている」


不意に響いた聞き慣れた声に、思わず肩が揺れた。

ゆっくりと振り向く。

逆らえない響きを持つその声に従って。

なんで?

どうして?

疑問ばかりが頭に浮かび、声が出ない。

そんな何も言わない私に、その人はゆっくりと近付いてきた。

会いたくなかった。

…ううん。

本当は会いたかったのかもしれない。

だって声を聞くだけで、その存在を感じるだけで、こんなにも心が震える。

相反する私の心。


「こんなに暗い展望台で、何か見えるのか?」


皮肉を含んだその笑い。

その瞳は、確かに私を捉えている。

――ギルバートだった。