傾国の貴妃

「女というのは面倒くさい生き物だ。すぐに俺に何かを求めようとする。物だったり、愛情だったり、様々だが…。でも、ローラは違う」


「陛下…」


「ギルバート」


私の言葉を遮るように、陛下は一人の男の名を口にした。


「ギル、バート…?」


オウム返しのように繰り返したその名は、なんだかひどく懐かしい響きを持っていた。

陛下は私の言葉に満足そうに頷く。


「ギルバート。俺の名だ。これからはギルと呼べ、ローラ」


「え…!」


「ローラに拒否権などない」


静かな部屋に、陛下の低い声が熱を持ったように甘く響く。


「この部屋では、俺は王でいたくない」


真っ直ぐな瞳。


「ローラに名が有るようで無いように、俺の名だって無いに等しい。この城での俺は、ギルバートではなく、王でしかないからな」