傾国の貴妃

「どうしてローラが落ち込む?」


「だって…」


思わず俯いた私に、陛下は心底わからないと言った風に顔を覗き込んできた。


「ローラ、泣くな」


「泣く…?」


「ああ、お前、泣いてる」


そう言われて初めて、頬を伝う冷たい感触に気付いた。

透明な、冷たい涙。

なぜ流れるのか。

止まらない、なんで?


「擦るな。赤くなるぞ」


そう言って陛下は、その長い指でそっと涙を拭ってくれた。

何も聞かずに。

何も言わずに。

その優しさに甘えて、私は久しぶりに声を出して泣いた。

泣いたのは、久しぶり。

ルシュドからこのシルフィード城に来る馬車の中で泣いたのが、最後。

自分でも理由がわからない涙は、ただただ止まることを知らなくて。

そんな私を陛下が優しく抱き締めてくれるのがわかった。

人の腕の中の温もりを感じるのも、久しぶりのことだった。