傾国の貴妃

「部屋が暗いな」


いきなり聞こえた低い声に、シンシアも私も飛び上がらんばかりに驚いた。

考え込んで、自分の世界の中に入ってしまっていた私には、突然すぎる刺激。

声の主はそれを特に気にする様子もなく、ズカズカと当たり前のように部屋の中央まで入ってくる。

キラキラと光を放つエメラルド色の瞳が、真っ直ぐに私を捉えた。

と思ったら、一言。


「おい、そこの者」


「は、はいっ!」


顔は私に向けたまま、動かないシンシアに向かってその低い声で呼び掛けた。

当然ながら、シンシアは慌てふためいた様子で、居住まいを正す。


「灯りを」


「たたた、只今!」


部屋の中央にあるシャンデリアはすぐに光を放ち、シンシアはそれを確認すると、気をきかせたのか静かに出て行った。

部屋には私とその男の人、二人だけ。

エリザベート様に釘をさされたばかりの私は、かなり戸惑ったけれど、結局のところ、私に拒否権なんて存在しない。

一週間ぶりに見る陛下は、私を見て笑いかけた。