傾国の貴妃

「……はは」


静かに流れていた沈黙を最初に破ったのは陛下だった。

その瞬間、緊張は一気にピークに達する。


「面白いことを言うな」


私の気持ちを知ってか知らずか、その顔には微かな笑み。


「お前、名は?」


「…名、ですか?」


「ああ。名は何と申す?ルシュドの」


それは、ここに来て初めてのこと。

ここ、シルフィードでは誰も私に名前を尋ねることなんかしない。

名前なんて興味の範疇外。

ここでは出身である邑の名だけが意味を持ったから。


「早く言え。名がないわけではないだろう?」


初めて名乗る、自分の名前に唇が渇いた。

名前。

私の父様と母様が付けてくれた、大事な…