傾国の貴妃

「…お前がルシュドの贄か」


軽薄そうなその薄い唇の端を持ち上げて、笑う。

男の第一声はそれだった。

一年ぶりの肉声。

一年前よりもずっと近い距離。


“ルシュドの贄”


男の放ったその一言は、皮肉にも私の今の状態そのものを上手く揶揄した言葉だった。


「一年、ですわ」


「一年?」


「ええ。私が此方でお仕えするようになって、もう一年」


形の良い眉毛が歪む。


「それは俺への恨み言か」


その言葉に、思わず笑ってしまった。

そう、一年。

私はこの一年、まともにこの男とは話したこともない。

ましてや、会うことすらなかった。

もう一生、この男と交わることさえ無いんじゃないかと、半ば諦めもしていたのだ。

だが、それもどういう風の吹き回しか。

今目の前に、陛下がいる。

陛下の瞳の中に映っているのは、紛れもなく私。