「真琴さんは何も話しませんでした。私がどういう子だったとか、なんでこうなったのかとかーー何も」
環「……それは、彼も困惑していたんだと」
「分かってます。ただ……いいことじゃないんだろうなって」
淡々とした声が、壁に吸い込まれていく。
噂されている“私”は何かの事件に巻き込まれたのか、事故にあったのか。
どちらにせよ、重症を負うような出来事が自身の身に起きたのは明白だった。
環「あなたは、どう思う?」
「……」
環「記憶を、取り戻したいと思う?」
少しだけ視線を落とす。
「……消えるかもしれない可能性があるなら、早いほうがいいなとは思います」
環「早い方が、いい?」
「長く居座ったところで、意味もない。誰も得をしないし、欲が出る前に消えるべきだと思うから」
“私”であることに違いはなくても、どこか他人を生きているような気分だ。
目の前に映るものは“知らないこと”ばかりで。
向こうは私を、“レイ”を知っているのに私は知らない。
ただ、それだけのことがどんな深い傷よりも、痛かった。
