環「そう……。如月さんとは何か話した?」
「退院の時、迎えに来るとだけ」
施設の園長だと関係を説明されたがそれ以来、真琴さんは一度も会いにきてはいない。
他にも園の子はいるから私一人に構ってもいられないのだろう。
環「何か、話したいことや聞きたいことはある?」
「いえ、特に何もありません」
あまりにもあっさりとした言葉に、環さんの目が一瞬だけ揺らぐ。
話したいことも、聞きたいことも、何もない。
環「……あなたが何も聞かないのは、なぜ?」
「……」
環「如月さんに保護者だと聞かされても、あなたの名前を伝えても、あなたは何も聞こうとせず“そうなんですか”と返すだけだったでしょ」
「……なんとなく、あぁそうなんだってしか思わなかったから」
普通なら、家族のこと聞きたがるのかもしれない。
でもーー私は違う。
記憶を失ったとしても、“根の部分”はそう簡単に変わらないのだと思う。
きっと昔から、こういう人間だったのだ。
何かを求めたり、誰かを頼ったりできない人間。
私は自分に家族がいないと聞かされてもどうしてだとは思わなかった。
環「この間、私が説明したことに関してはどう考えてる?」
淡々とした問いかけ。
その声には、わずかな探りが混じっていた。
ーーもし、記憶が戻ることがあったら。
その時、今の記憶は“反動”で消えていくかも知れない。
それが、環さんが先日告げた内容だった。
