看護師A「それに、運ばれてきた時のあの子ーーひどい怪我だったわよね」
看護師B「ええ。目を覚ましたのだって奇跡って言われてた。あれだけの重症から助かるなんて、ほんとに運が良かったわ」
……運がよかった。
その言葉だけが、やけに遠くで響いた。
およそ1ヶ月近く眠っていたという私は、もう目を覚まさないだろうと誰もが思っていたらしい。
それほどまでに、重症だったのだと説明を受けた。
看護師A「それに、一緒に運ばれてきたーー」
環「今は勤務時間中ですよ。噂話は他所でしなさい」
静かに、しかし有無を言わせぬ声。
突如、現れた環さんが二人を止めていた。
環さんの視線を辿って、私の存在に気づいた看護師さんたちは気まずそうに小さく「ごめんね」言い残し、早々に去っていく。
環「……少し、話をしましょうか」
促されるまま、空いている部屋に通される。
壁は真っ白で、窓の外には薄く曇った空。
環「何か、思い出したことはある?」
「いえ……」
短い返事しかできなかった。
言葉を出すたびに、自分の中の空洞が音を立てる気がした。
ーー人づてでしか、私を“私”を知れない。
消えた私を思い、泣いた真琴さん。
運ばれてきた時のことを「痛々しかった」と噂する病院関係者。
“私”の今は、それだけ。
それだけでしかない。
