窓の外には、秋の景色が広がっていた。
風に煽られた枯葉が、クルクルと回りながら落ちていく。
ーーまるで、その光景が“空っぽの私”みたいだ。
心のどこかでそう思った瞬間、胸の奥がひどく静かになった。
悲しいわけでもない。ただ、なにもないだけ。
しばらくして、扉がノックされた。
戻ってきた環さんの後ろから、先ほどの男性が入ってくる。
目の縁が赤い。きっと泣いていたのだろう。
真琴「……僕は君の保護者の、如月真琴です。ーー君の名前は、如月レイだよ」
保護者。
その言葉の響きで、父親ではないということは理解した。
「……そう、ですか」
名前を聞いても、なにも思い出せない。
まるで他人の名前を聞いているようだった。
環「……日常生活で必要な記憶は失っていないようだから、二週間ほど入院して様子をみようと思います」
“記憶喪失”。
それが今の自分を説明する言葉らしい。
けれど、正直どうでも良かった。
なにを失ったのかさえわからないのに、
“喪失”という言葉だけが勝手に私を形作っていく。
ーー入院して3日目のことだった。
少しだけ“レイ”という人物を知ることができたのは。
廊下の自販機で飲み物を買っていた時。
ナースステーションの奥から、女性たちの声が聞こえた。
看護師A「可哀想にねぇ……レイちゃん。養護施設で育った上に、記憶喪失だなんて」
看護師B「しかも、生後まもないうちに……って話だし」
缶が取り出し口に落ちる音が、やけに大きく響いた。
彼女たちは、私がそこにいることに気づいていない。
