ANEMONE〜恋に終わりを告げたなら



環「初めまして、あなたの担当になった桜庭環【さくらばたまき】です。……いくつか質問してもいいかな」


落ち着いた声だった。
白衣の袖口から覗く手首が細く、光を反射してやけに眩しく見える。
彼女はベッドの横に腰を下ろし、目線を合わせてくる。


「はい」

環「疲れてない?気分が悪くなったりしてない?」

「……大丈夫です」

環「そう。じゃあ、少しだけね。ーー何か、覚えていることはあるかしら?例えば目を覚ます前に“何が”あったかとか、自分のこととかでも」

「……何も」


短く答えた声が、やけに自分のものとは思えなかった。
頭の中が空っぽのような、何かが抜け落ちた感覚だけで何も思い出せない。


環「ここが、どこだかわかる?」

「……病院ですよね」

環「そうね。じゃあーーこれが何か、分かる?」

胸ポケットから取り出した小さなものを、そっと手渡される。
ひんやりした金属の感触。


「……ボールペン」

「うん、正解」


一問ずつ、確かめるように。


そういった簡単な質問をいくつか続けてから、環さんはメモをとり、穏やかに微笑んだ。


「少し席を外すわね。すぐ戻るから、ゆっくりしていて」


扉が閉まる音がして、病室の静寂が戻る。