10歳の秋頃だった。
目を開けたとき、最初に見えたのは白い天井。
光が滲んで、どこか現実のものではないように思えた。
鼻をくすぐる消毒液の匂い。
遠くで鳴るモニター音。
ここが病院なのだと、ぼんやりと理解する。
けれどーー自分が誰なのかが、わからなかった。
そのとき。
真琴「レイ!!」
視界の端で扉が開き、駆け寄ってきた男がいた。
荒い息のまま、私の名を呼んで。
気だるい身体を起こすと、驚きと安堵が混ざった表情で立っていた。
その目は涙で滲んでいて、次の瞬間、男は私を抱きしめた。
温かい腕の中。
ーーレイ。
それが、私の名前なのだろうか。
聞いても、あまりピンとこない。
真琴「……レイ?」
あまりにも何も反応しない私に、男の表情がこわばる。
瞳の奥が、不安で濁っていくのがわかった。
「……だれ、ですか?」
その言葉を口にした瞬間、部屋の空気が一変した。
沈黙が、重く降りてくる。
真琴さんが呼んだ、医者が来て、検査やらが始まった。
気づいた時には、真琴さんの姿は病室から消えていた。
