ANEMONE〜恋に終わりを告げたなら



遥斗が両親譲りの端正な顔立ちをしているなら、時雨は中性的で、儚げな美しさを纏っていた。
男の俺から見ても、整いすぎた顔だと思う。


昔、時雨とレイの間に何があったのかは、誰もはっきり知らない。
ただひとつ確かなのは、レイが現れる前の時雨は、来るもの拒まず去るもの追わずで、女遊びにも淡白だったのにーー
レイと出会ってからは、女遊びをぴたりとやめたということだ。

それだけでも、時雨が本気でレイを想っていたことはわかる。


遥斗「レイは、お前に何か話したのか?過去のこと」


ーーそういえば、遥斗がレイの名を口にするのは、ずいぶん久しぶりだ。それぐらいレイという言葉は禁句に近かった。


レイがなんであの家で育たなかったのか、施設で暮らしていたのか。誰もその話題を触れなかったし、触れられるような雰囲気でもなかった。


朝倉が短く息を吐き、目を細める。
月夜「覚えてないことを、話すかよ」


その言葉を聞いた瞬間、遥斗の表情がわずかに歪んだ。
普段は穏やかで、仲間にも公平な遥斗だが、レイのこととなると感情を隠しきれない。


遥斗「……レイのことが大事なら、もう関わるな。あいつは俺らみたいなのと関わるべきじゃない」

低い声に、かすかな怒りが混じっていた。
それは誰に向けたものなのか、俺にはわからなかった。

月夜「……だとしても、レイがそれを望んだのか」

遥斗「……」

月夜「お前らがレイに何も言わず、近づこうとしないのも、レイのためだって言うけどなーーそれをあいつがお前らに求めたのか」

遥斗は何も言い返さなかった。
言葉を失ったというよりも、
その問いが胸の奥の痛いところを突いていたのだろう。


遥斗「……それでも、関わるな。レイを想うなら、それが一番だ」


遥斗の言葉には、苦悩が滲んでいた。

朝倉はそれ以上何も言わず、弟を連れて倉庫を後にした。

その背を目で追いながら、心の奥でふと、遥斗の部屋のことを思い出した。

本棚の奥に古びた一冊のアルバム。
何年か前に、うっかり見てしまったことがある。
そこに挟まれていた、一枚の写真。
まだ幼い頃のレイと遥斗が並んで写っていて、二人とも笑っていた。


いまの二人からは想像もできないくらい、あたたかな表情をしていた。


何がこの兄妹を会話もない関係にさせたのか。
深入りできない俺も甘南も所詮は東城に拾われた居候にすぎない。


立ち入ってはいけない領域があることくらい、わかっているつもりだ。