八重「人魚姫の物語を知っている?」
いつだったか、八重さんに聴かれたことがある。童話の人魚姫を知っているかと。
深い海の底で暮らす美しい人魚姫。
一人の人間に恋をするも実ることなく泡となって消えていく。
愛する人を傷つけずに自分を犠牲にする人魚姫の恋は儚く見える。
八重「私の友達も、人魚姫みたいに消えていったの。愛する人を傷つけまいと。優しい子だったから」
その言葉に、私は小さく笑った。
「……自分が傷つきたくなかっただけだよ」
八重「え?」
「人は傲慢で愚かだから。何かの犠牲を“優しさ”とか
“思いやり”って綺麗な言葉で片付けるけど。誰かを想うふりして、自分が楽になりたいだけ」
八重さんは何も言わず、静かに私を見つめていた。
責めるでも、否定するでもなく。
その瞳の奥に、どこか悲しそうな光を宿して。
***
飛鳥「……そっか。そんな前から知り合いだったんだ」
それから八重さんが亡くなるまでの2年間。
あの公園で時々、会っては自慢の息子の話やあの時、お腹の中にいた赤ちゃんと遊んだり。
