数日後。
昼下がりの公園。
私は学校をサボって、ベンチに寝そべっていた。
八重「あら、また会えたわね」
声の主を見上げると、あの妊婦さんーー八重さんが立っていた。
相変わらずな柔らかな雰囲気で、優しい笑みを浮かべている。
八重「あなた、この時間は学校なんじゃないの?」
「サボりです」
八重「あらあら笑。悩めるお年頃ね笑」
咎めるわけでもなく、むしろ可笑しそうに笑う。
その人柄に、少し拍子抜けした。
八重「私、藤浪八重。あなたのお名前は?」
「……よく知りもしない人に教えるなって言われてますから」
八重「ふふ笑。えらいえらい」
生意気を言う私に気分を害す様子はなく、髪がぐしゃぐしゃになるくらい撫でられた。
あんなふうに撫でられたのは、いつぶりだろうか。
八重「あなたぐらいの息子が、一人いるの。お腹の中のことは、ちょっと歳が離れた兄弟になるけどね」
お腹を撫でながら話す八重さんの表情は、とても幸せそうで。
“家族”という言葉が少し眩しかった。
八重「私ね、アネモネの花が、この世界で一番好きなの」
「花?」
「ええ。家の庭で育ててるの。アネモネってね、“あなたを愛します”って花言葉なのよ」
そう言って、どこか遠くを見つめるように微笑む。
風が吹き、ベンチの脇の花壇がわずかに揺れた。
