ANEMONE〜恋に終わりを告げたなら



翼「お〜、レイが選ばなさそうなやつだな、笑」


他人事のように呑気に紙袋を覗き込む翼は、助けてくれる気なんてさらさらない。
むしろ面白がるように、「早く着替えてこい」と更衣室の方へ私の背を押した。


遠くでは、時雨が遥斗たちと何かを話していた。
その表情はいつもの柔らかさとは違い、どこか冷たい。
近づけない雰囲気が漂っている。


翼「さっきの連中の後始末の話だよ」

「……後始末、ねぇ」


言葉の響きが、やけに重く胸に残る。
その“後始末”の中に、どれほどの暴力と沈黙が隠れているのか。


二人きりになったから軽い感じで話さない翼。


相変わらず、筋を通すなどという義理堅い世界で生きているんだな。


翼「そういうもんだろ。……あいつらの世界って」

「……そうだね、笑」


乾いた笑いが喉の奥で引っかかる。


――人工呼吸器の規則的な音。
かろうじて生きている“あの子”のかすかな呼吸。
薄暗い病室で、私はただ見ていることしかできない。


翼「……お前は、ヤクザが嫌いだろ」

「……」


不意に問われて、視線を落とした。
その口調は軽いのに、瞳の奥は真剣だった。


翼は私と似ていた。
いくつもの仮面を重ねて、どれが“本当の自分”かもわからなくなってしまった人間。
だからこそ、こういうときだけ勘が鋭い。


ヤクザが嫌いというより、“あちら側”にいる連中が嫌いなだけだ。


あの子……結衣を追い詰めた、あの連中がいた場所。