葵はそんな私を見ながらわざとらしく笑い、視線を横に流した。
葵「面白くねぇな……じゃあ、2年ぶりに元彼と再会した感想は」
その視線の先ーー壁に寄りかかって目を瞑っている彼に向く。
葵の目には私と彼がそういう関係に見えていたのだろうか。恋人などという関係に。
「別になにも」
葵「お前にとっては初恋だろ、笑……どうなんだよ」
葵の顔には、からかいと同時に、どこか哀しさのようなものが混ざっていた。
「初恋、ねぇ……」
初めての恋。大体、幼少期に済ませるイベントのそれは私にとって初めてなのかすらもわからない。
レイは、誰かを好きになったことはあるのかな。なにを思って生きていたのかな。
自分のことなのに、他人にも思えるレイという人物。それぐらい、施設や学校での周りの評価が今の私とレイとでは違うような気がした。
葵「違うのか笑」
瞑っていた目を開いた彼と再び視線が交わり、高鳴る鼓動を抑え冷静を保つ。
「……さぁ、どうだったかな。忘れた」
この恋に、蓋をした。私には重たすぎるほどの愛だったから。
甘南「あ、あの」
静寂に包まれた空間を破ったのは可愛らしく、小動物のような可憐な子。
甘南「ごめんなさい」
「……なにが」
自分に向けられた謝罪に、少し騒つく。この子が私に謝る理由は私にとっては謝られるようなことではない。
そもそも、この子に謝ってほしいなどとは思っていない。謝られるほど不快な思いは感じていないし、恨んだこともない。
甘南「……だ、って」
「……勘違いしてる」
甘南「勘違い?」
「私は別に、捨てられて悲しいなんて思ってないし憎いとも思ってない。……育った場所は家族がいないなんて普通だったし、必要もなかった。だから別にあなたに謝られることなんてなに一つない」
そういう場所だった。周りにいた子達も親に捨てられてだとか、虐待を受けて保護されたりとか。いろんな環境や状況でそうなった子達がたくさんいた。
甘南「もし、あなたが捨てられてなんかなかったとしたらーー」
「……その話、続けたところで意味ある?もしなんて考えたところで、なにも変わらないよ」
『可哀想』『何か事情があって迎えに来れないだけ』
そういった、同情の言葉や慰めは聞き飽きた。家族がいないから、あの子は可哀想な子だと。そんなふうに言われ、そういう目で見られる。
初めは傷つきもしたし、嫌だと思った。だけど人間は慣れを知ればなにも感じなくなる。
そういうものだ。
どんなふうに言われようとも、これから先変わることのない事実。
親に捨てられた。
ただ、それだけ。
「私は終わりのない話に興味なんてないし、する気もない。だから、謝罪もいらない」
誰かの謝罪を聞きたいわけでも、
可哀想だと思われたいわけでもない。
可哀想なんて思われるだけ惨めでちっぽけになる。
そう告げて倉庫を出るといつの間にか雨が降り出していた。
傘なんて持っていなかったから、ずぶ濡れになりながら帰路を歩く。
雨は好きで、居心地は良かった。汚れていた心を洗い流してくれているように感じられるから。
