ANEMONE〜恋に終わりを告げたなら



瑠維「もしかして、あのレイってやつが……捨てた娘か?」

遥斗「……知ってたのか?」


低く落ち着いた声に、空気が一瞬で凍った。
二人の間に、誰も割り込むことができなかった。


ーー“捨てた娘”という言葉。
その響きだけで、胸の奥がざらつく。


瑠維はレイの存在を知らないと。
遥斗はそう言っていて、俺たちにも口止めしていた。


遥斗は「話すな」と言っていたし、あの時の優香里さんの様子を見れば、“触れてはいけない話題”だと誰だってわかる。


だから“捨てた娘”と言って遥斗は驚いている。


遥斗「……御堂か」

瑠維「なんで親父たちはそんなこと出来んだよ。自分の娘だろ」


静かな声だったが、怒りと悲しみが滲んでいた。


俺の知る純さんと優香里さんは、少なくとも“情のある人間”だった。
女だから、という理由だけで自分の子供を捨てるような人じゃない。
だからこそーー何か理由があるとしか思えなかった。


瑠維「自分の子供捨てといて、他人の子供は拾うのかよ」

遥斗「おい」

瑠維「だってそうだろ!俺は家族なのに、最近まであいつの存在すら知らなかった」

遥斗「お前は……知らなくていいことだ」

瑠維「ふざけんな!俺にだってーー知る権利あるだろ……クソ兄貴」


そう悪態ついて一人でどこかへと行ってしまった瑠維はあの日から東城家には帰ってこなくなった。


***


時雨「ん、うまいな」

レイ「鉄が作ったからね」

時雨「……そういう意味じゃねぇけど」


……あの時雨が。


女に興味のない時雨がレイの前では人がガラリと変わりデレデレしている光景はいまだに違和感を感じる。