三咲side
時雨「一つくれ」
レイ「はい」
……なんだこの甘い空気は。
目の前で、レイが時雨にたこ焼きを食べさせている。距離が近い。
恋人のような、あの独特の温度だ。
あの時雨が、まるで別人みたいな柔らかい顔をしている。
優香里さんとレイが居合わせたあの日。
いなくなったレイを追いかけて行った時雨の表情は、ひどく焦っていた。
***
あの日のことを、思い出す。
優香里さんの瞳。
あんなに冷たい目をした優香里さんを見たのは初めてだった。
瑠維「母さん?」
優香里「どうしてあの子がいたの」
いつも穏やかで品のある優香里さんの声が、震えていた。
遥斗の見つめ、問いただす優香里さんの声には、怒りが混じっていた。
優香里「どうして一緒にいたの!!」
その声が響いた瞬間、空気が凍った。
遥斗「落ち着けって……瑠維がいるだろ」
冷静な遥斗がそう言って優香里さんを宥める。
優香里さんはハッとしたように瞬きをして、次の瞬間には別人のように穏やかな笑みを浮かべた。
優香里「ご、めんなさいね。ちょっと疲れてるのかしら。先に帰ってるわね」
その笑みは、少し怖かった。
目だけが笑っていなく、作られた笑みだとわかったから。
護衛の東城家の連中が優香里さんを囲むようにしてその場を離れていく。
残された俺たちは、ただ立ち尽くしていた。
