ANEMONE〜恋に終わりを告げたなら



あの日を境に時雨と会うことは一度もなかった。


街灯も点いていない暗い空間に時雨と二人きり。
何年経っても変わることがなかった時雨への恋心に結局、蓋を閉じることができなかった。


優しくて、辛い時そばにいてくれた時雨。
たったそれだけの理由だけど、私にとってはヒーローみたいに大きくて。


暗闇から救い出してくれる、特別な人。


時雨「……レイ」


その声を聞いた瞬間、世界の色がわずかに変わった気がした。
闇に溶けるような低い声で、それでも優しく私の名前を呼ぶ。


顔を上げると、時雨の瞳と目が合った。
息を飲む間もなく、ゆっくりと一歩、また一歩と近づいてくる。


足がすくんで動けない。
ただ、その場で彼を見つめるしかなかった。

気づけば――

唇が触れ合っていた。

初めてのキスは、思っていたよりも柔らかくて、温かくて。
心臓が大きく脈を打ち、鼓動の音が耳の奥で響いた。


何もかもが一瞬でどうでもよくなるくらいに、


時雨が好きだと思った。