実際にかけることは一度もなかった。かける勇気がなく自分から連絡するのを躊躇った。
たまに彼が会いに来て、たまに一緒に出掛けて。よく分からない関係を続けていた。
あの時、隣にいた女性との関係を聞くことも出来ないような曖昧な関係。
時雨「クラゲ好きなのか?」
淡く青い光を受けた横顔で、時雨がぽつりと尋ねてきた。
「……笑。ゆるふわな感じが癒される」
時雨「ずっと見てるな笑」
「クラゲって、何も考えていないんだって。反射で動いてるだけで……。羨ましいって思う」
口にした途端、自分でも少しだけ苦笑した。
時雨から誘われた水族館でかれこれ1時間近くクラゲを見ている。ちょうどイルカショーの時間だからか人気はなく空間に二人きり。
時雨は何も言わず、ガラス越しに揺れる光の群れをじっと眺めていた。
その横顔が、いつもより静かで穏やかに見えた。
「……イルカショーみたかった?」
時雨「いや。お前の好きなのみたらいいよ」
「そろそろ帰ろっか」
時雨「もういいのか?」
「うん」
水族館を出ると、夕暮れが街を薄いオレンジ色に染めていた。
二人で並んで歩き出したときーー時雨と呼ぶ声が聞こえる。
そこにいたのはこの間、時雨といた男二人と、見覚えのない可愛いらしい女の子。この間の女性はいない。
