香「俺は表立って動けないからな〜」
香はいつも通り気の抜けた調子で笑う。
「だからって真琴さん巻き込まないで」
香「真琴を動かせば必然的にお前出てくるだろ〜。実際出てきたし……お前、本当に真琴が大事なんだな」
その言葉に、一瞬だけ口をつぐんだ。
……正直、分からない。
私が記憶を失って最初に目にしたのが、真琴さんだった。
だからーーその存在が“親”のように刷り込まれてしまったのかもしれない。
雛鳥が、最初に見たものを親だと思い込むように。
私にとって真琴さんは、家族の記憶のない空白を埋める唯一の“家族”のような人だった。
「……笑。それ早めに頼んだぞ〜」
その薄い笑みが、どうしようもなく憎たらしい。
私は返事もせず、渡された小さな包みをポケットに押し込み、そのまま背を向けた。
鉄の扉を開けると、地下の冷たい空気が背中から離れていく。
階段を上がると、途端に夏の光が目に飛び込んできた。
眩しさに思わず目を細める。
照りつける太陽の熱が肌を刺す。鬱陶しくて憂鬱な天気。
息を吐きながら繁華街の通りに出る。
賑やかな人の声や車の音が押し寄せてきて、先ほどまでの静けさが嘘のようだ。
しばらく歩いていると、人波の向こうで、ふと視線が止まる。
見たくもない光景が目に入った瞬間、胸の奥がさざ波のように荒れた。
