ANEMONE〜恋に終わりを告げたなら



施設を出て、東にある小さな雑貨店に足を運んだ。
表向きは古びた店だが、店内の奥にある狭い階段を降りると、別世界のような空気が広がる。


扉を押し開けると、部屋の中央に立っていた全身黒ずくめの男がこちらを振り向いた。


香「お前がくるなんて、珍しいな」


低い声でそう言ったのは、飛来 香【ひらい こう】。
真琴さんの旧知の仲らしいが、私はこの男を信用していない。


陽の光も届かないこの地下の部屋は、香の隠れ家らしく、壁際には古い木箱や書類の束が乱雑に積まれていた。


「真琴さんに頼まれただけ」


ぶっきらぼうに答えると、香は口元に皮肉めいた笑みを浮かべて、机の引き出しから小さな包みを出した。


「ほらよ。例のブツは手に入ったぜ」


受け取る手を伸ばしながら、つい言葉が出る。


「……こんなの手に入れられるなら、真琴さんを巻き込まないで“そっち”でなんとかすればいいでしょ」


香の笑みは崩れない。


真琴さんは、かつては凄腕の情報屋だった人。
今はその世界から足を洗い、施設の子どもたちの面倒を見ている。
そんな真琴さんを、香は何かと理由をつけて引き戻そうとする。
私を介して。


「そう邪険にするなよ」


真琴さんを巻き込んで、私を利用したいだけ。何が目的なのか、なかなか尻尾を出さないこの男は食えないやつだ。