月夜「今日もあの場所に行くのか?」
玄関先で、月夜がいつものように声をかけてきた。
毎朝、ほとんど同じ時間に顔を出す。
携帯を持たない私のために、わざわざ施設まで来てくれるのだ。
施設の固定電話を使ってもいいことになっているけど、必要最低限しか私は使わない。
そのことを知っている月夜は、こうしてわざわざ施設まで出向いてくれる。
学校に行くのか、どこかに用があるのか。
大抵はその確認だ。
「今日は、買い物に行くよ」
朝、真琴さんに会った時、施設の備品をいくつか買い足して欲しいと頼まれた。
ついでに、ある人から渡される予定のものを受け取って欲しいとも。
月夜「俺、ついていこうか?」
「すぐ終わるし、軽いものだから大丈夫だよ」
軽く首を振ると、月夜は一拍おいてから口を開いた。
月夜「そうか。……あまり西には近づくなよ」
東西南北。
この街はきれいに4つの区域に分けられている。
その中で西だけは、昼間でもどこか薄暗く、陰気が漂っていた。
この街の中で最も危険だと言われている西。
情報屋の仕事で何度か足を運んだことがあるが、空気が淀んでいて、歩くだけで皮膚にまとわりつくような不快感を覚える場所だった。
「わかってるよ」
そう答えると、月夜は少し安心したように頷いた。
私の返事を聞くと、携帯を取り出し、どこかに電話をかけながらゆっくりと歩き出した。
