「ちょっと風邪気味なだけだから」
軽く肩をすくめてそういうと、甘南はほっとしたように息をついたかと思えば、すぐに心配そうに眉を下げた。
「でも、だったらなおさら送ってもらわなきゃ……」
送られる方が、疲れるんだけどな……。
送られる方向へ話が傾いてしまう。瑠維がその空気を破るように声を上げた。
瑠維「そういえば衣乃、母さんは?」
衣乃「優香里さんならーー」
衣乃が答えかけたその時、
すぐ背後から聞き覚えのない女性の声が割り込んだ。
優香里「瑠維、衣乃ちゃん。探したわよ」
ーーあぁ、ほら。
やっぱり早めに帰っておけばよかったのに。
嫌ごとは続くとはよく言ったもので……
きっと私の今日の運勢は最下位に違いない。
緩やかな足取りで現れたその女性は、極道の妻とは思えないほど柔らかな雰囲気を纏っていた。
年齢を感じさせない上品さがあり、目元は穏やかで、声も優しい。
優香里「あら、遥斗達もいたのね」
瑠維「母さん、もう買い物はいいのか?」
瑠維が声をかけると、女性ーー“優香里さん”は微笑んで頷いた。
優香里さんのすぐ後ろには数人の男たちが控えていた。
いずれも無口で目つきが鋭く、場の空気がわずかに張り詰める。
誰が見ても護衛だとわかる風貌だ。
その中の一人を見た瞬間、
胸の奥が少しだけざらりとした。
ーー御堂。
その男は、私が12歳の時施設まで訪ねてきて、私の生い立ちを語り、なんで施設にいるのかを説明した。
