ANEMONE〜恋に終わりを告げたなら



「一人で帰れるから」


夜に一人で出歩くのは日常茶飯事だし、まだ19時前だし。
誰かに送られる理由はない。

すると、バイクのそばに立っていた赤い髪の男がにこりと人懐っこい笑みを向けてきた。
その笑顔は見た目の派手さとは違って、どこか穏やかだった。


飛鳥「いや、一人じゃ危ないよ。翼や時雨が嫌なら、俺が送るよ」


軽い調子だが、押し付けがましさはない。
気取らない声音に、周囲の空気がほんの少し和らぐ気がした。


飛鳥「そういえば、自己紹介がまだだったね。俺は藤浪飛鳥。よろしくね」


藤浪ーー。
そういえば藤浪の子息が東海にいるって話だったか、と一人納得する。


「……本当に一人で大丈夫だから」


飛鳥は一瞬目を丸くし、それから少しだけ肩をすくめた。
取り繕った笑顔は、育ちの良さゆえか嫌味にはならない。

その時、別の声が背後から響いた。


瑠維「あれ、兄貴。こんなところで何してんの?」


振り向くと、街灯の下から軽やかな足取りで青年が現れた。
東城遥斗と同じ目元を持ちながら、どこか自由奔放な雰囲気を纏っている。


遥斗「瑠維……」


遥斗がわずかに眉をひそめる。


瑠維ーーそう呼ばれた青年は気安い調子で笑い、周囲を軽く見回してから私に視線をとめた。


……これが、私と血の繋がりのがあるという“兄”。
正確には双子らしいが、雰囲気はまるで違う。
兄妹らしい親近感はどこにも湧かなかった。


二卵性双生児というやつだろうーーそんなふうに、他人事のように思った。