ふと、指先にやわらかい感触が伝わった。
見ると、甘南がそっと私の手を握っていた。
甘南は少しだけ俯いたまま、それでもはっきりとした声で言った。
甘南「レイちゃん、自分には何もないってさっき言ってたけど……そんなことないよ」
言葉の後、握った手にはほんのわずか力がこもる。
まるでその言葉を確かめるように。
私は目を伏せ、答えを返さなかった。
甘南「何もない人なんて、いないよ」
優しい人は、嫌いじゃなかった。
でもその優しさを自分に向けられても、私はあまり嬉しくない。
あたたかさは、私にとっては救いではなく、どこか遠いものだ。
自分が孤独な人間だと、悲観するつもりも、嘆くつもりもない。
私はーー独りでいることを望んでいる。
「……甘南は、真っ直ぐだね笑」
空っぽの私とは正反対。
ただ、生きているだけの私とは、天と地ほどの差がある。
翼「レイ、もう遅いから送るぞ〜」
甘南の手からそっと自分の手を抜き、再び帰ろうとした私にバイクから降りもせずに私を見る裏切り者。
「裏切り者の後ろに乗るのは信用ならないな笑」
そう返すと、翼はニヤリと笑い、軽く肩をすくめる。
翼「お、だったら時雨に送ってもらうか〜」
空気を読んでいないのか、わざと読まないのか。その場に妙な沈黙が落ちた。
ーー多分、翼のことだから後者だろう。
