久しぶりに施設に顔を出そうかと思いながら、校門を出て歩いていた。
不意に後ろから腕を掴まれ振り返る間もなく、ぐいと引っ張られ、少し先の路地へ小走りに連れていかれる。
「……あの、どういうこと?」
普通に一緒に走ってきたけど……。
甘南「ごめんなさい!……ここ、16時までに女子限定のペアセットがあって。ずっと食べてみたくて、ちょうどレイちゃんが通りかかったから、つい」
指さす先には、通学路から少し外れた小さなカフェ。
木製のドアと白い壁。窓辺には色とりどりのドライフラワーが吊るされていて、外からでも甘い香りが漂ってくるようだ。
店先の黒板にはチョークの手書きで「ガトー&スフレ 女子限定ペアセット」と書かれている。
ーー完全に女子向けの店だ。。
「友達と来ればいいでしょうに」
少し呆れたようにいうと、甘南は目を丸くして、それから俯いた。
甘南「……女の子の友達、いなくて。お兄ちゃんたち目当てで話しかけてくる子はいるけど、本当の友達って感じじゃないから」
その声は、弱々しくて、笑顔がどこかぎこちなかった。
ーー面倒な立場だな。まぁ、関係ない話だけど。
黙ってドアを押して入ると、甘南がホッとしたように後ろからついてきた。
ソファに向かい合って座ると、運ばれてきたペアセットの皿には、丸いスフレと小さなガトーショコラが並び、ほんのりと湯気を立てていた。
甘南は目を輝かせながらフォークを手に取った。
甘南「いただきます!」
ぱくりと一口頬張ると、目を細めて満足そうに微笑んだ。
甘南「美味しい!……レイちゃんも食べてみない?」
「私はいいよ。甘いのはあんまり好きじゃないから」
そう答えて、コーヒーを口に運ぶ。
甘南「あ、の……レイちゃんって呼んでもいい?だ、ダメなら全然いいんだけど」
すぐには答えずにいると、甘南は小さく肩を落として視線を下げた。
その仕草に、ほんの少し昔の記憶が掠める。
甘南に雰囲気が似ていて、明るくて、裏表もないような人の良い子だった。
「いいけど……」
甘南「え!いいの?」
ぱっと顔をあげて、満面の笑みを見せた。
まっすぐで無防備なその笑顔に、一瞬目を逸らした。
甘南は紅茶を一口飲んでから、楽しそうに話を続けた。
甘南「レイちゃんも学校帰り?」
「うん」
甘南「南の制服、本当に可愛いよね!ブレザーいいなぁ」
「東海の制服はセーラなんだね」
甘南「うん。アレンジできないし、結構校則厳しいんだよね」
南浜は先生も緩くて校則などないようなものだ。制服も着てこなくても何も言われない。
