ANEMONE〜恋に終わりを告げたなら


レイside


夏海「レイさん、大丈夫ですか?」

カーテンがするりと開き、柔らかい声が差し込んだ。
保険医の立花夏海ーー通称なっちゃんが、心配そうにこちらを覗き込んでくる。
いつも通り髪を低く束ねたその姿は、少しだけ母親のように見えた。

枕に半分顔を埋めたまま目を開ける。

「さっきよりはマシかな」

なっちゃんは安心したように微笑んだが、すぐに眉をひそめる。

夏海「もう雨の中、傘もささずに長時間出歩くのはやめてくださいね」

その声には呆れと心配が半々に混ざっているのが感じ取れた。

昨日のあれから少し風邪気味の私は朝から保健室に入り浸って寝ていた。

「はいはい……」

小さく肩をすくめて返事をする。なっちゃんはまだ言いたげな目をしていたが、結局それ以上言わず「もう少し寝ていってください」とだけ言って、カーテンをそっと閉めた。

保健室は授業の合間のざわめきも届かないくらい静かだった。
壁の時計の秒針の音がやけに耳につく。

そのまま、しばらくうつらうつらしていたが、チャイムが何度か鳴り、やがて放課後を告げる音が響いた。

「……帰るか」

まだ少し気だるい体を起こし小煩いなっちゃんに礼を言い、逃げるように保健室を後にした。


人気のない昇降口は、夕方の光が薄く射し込んでいるだけだった。
人の気配がない空間に立つと、胸の奥に少しの寂しさを思い出す。


小5の時。
今みたいに風邪を引いて一人で施設に帰った日。他に風邪を引いた子達には親が迎えに来ていてそれを眺めるちっぽけな私。

施設の人が迎えに来れなくて、送るという担任の先生に一人で帰るといって学校を後にした。
一人で帰ってきた私に、親代わりだった園長の真琴さんが心底申し訳なさそうに眉を下げていた。

“ごめんな”って。
あまりにも哀しそうな顔をするから、大丈夫だと初めて真琴さんに、無理やり笑顔を作った日。