ANEMONE〜恋に終わりを告げたなら




街を見下ろす展望台に立つのが、昔から好きだった。
昼でも夜でも、あの景色は何も変わらない。

何年経っても色褪せず、ただそこに在り続ける。
まるで過去も未来も無視して、世界のどこにも属さない場所。


深夜一時。


人気のない高台の上は、冷えた空気が頬を刺し、音ひとつない。
遠くで犬が吠える声さえ届かず、この世に自分しかいないんじゃないかと錯覚するほどの、張り詰めた静寂。

ーーそういう時間と場所が、妙に落ち着く。


ここに来ると、自分がどれだけちっぽけな存在か思い知らされる。
誰からも気にされず、誰の記憶にも残らない。
そんな自分が、この街の灯りの隅っこに紛れてるってだけで、少しだけ安心できる。


孤独というのは、痛みじゃない。時に、安らぎになるものだ。

吐く息が白く散る。
鉄柵の下では街の高速道路を走る車の光が滑るように流れてゆき、消えていった。


そんな空気を壊したのは、ポケットの中で震えるスマホだった。


ディスプレイに表示された名前を見て、思わずため息が漏れる。


「……なに」


耳に当てると、いかにも気の短い声が返ってくる。


『今、どこ?』

「月が知らない場所だよ」

『……またそこか。いいかげん教えろよ』

「やだよ。一人になりたいから来てるのに」


この場所は、私にとっては“逃げ場”みたいなもの。