私はそれまでママとリクがいれば、パパなんかいらないって、そう思っていた。

でも、ひなちゃんの家でひなちゃんのお父さんの魔法の手を見ちゃってからというもの、私はいつもお父さんという存在ばかりを考えてしまっていた。

ある日学校で些細な事で男の子と喧嘩した。

普段から、何かにつけて私に意地悪ばっかりするその子が、父の日に描いた私の絵をみて馬鹿にしたからだ。

私はひなちゃんのお父さんの魔法の手を描いた。
でもその手に撫でられているのは、お姫様姿の私だ。

するとその男の子は

「お前、何描いてんの、ばっかじゃーねーの、おいみんな見ろよ」

そう言うと私が描いた魔法の手の絵を取り上げてみんなに見せた。

いつもは頼りになる担任の先生も、職員室に忘れ物を取りに行ってしまっていたので彼を止める人は誰もいない。

我が家にはお父さんがいないって事をほとんどの友達が知っていたので
教室は気まずい雰囲気になった。

私は自分の絵がばかにされた事よりも、密かに思っていたお父さんへの憧れが皆にバレちゃったみたいな気がして、涙がポロッと頬を伝った。

その時ひなちゃんが

「その絵を今すぐ、しいなちゃんにお返ししなさいッ」

先生みたいに強い口調で
両手をわなわなさせて
真っ赤な顔で怒って言ってくれた。

「うるせー、久住、お前自分ちがちょっと金持ちだからっていばってんじゃねーよ。」

バシン

私は大事な親友の悪口を言われて思わすその子をぶってしまった。

それからはもう･･･お決まりのパターンで。

男の子が私に取っ組みかかって私は勢いよく床に倒れて男の子の下敷きになった。

「あ、殴られる」

そう思って何とか顔を庇った瞬間。

「しーなに何すんだよ、テメー、ぶっとばす」

そそういって私を殴ろうと私の上に乗っかっている男の子に飛び掛った男の子がいた。

それはもちろんリクだった。