Secret mode〜後輩くんの見てはいけないトコロを見てしまいました〜










「あー、楽。やっぱ、正解でした」

「………なんで、いい人のふりしてたの」


そこで、コソコソチラチラしてる人々。
ちゃんと、会話の内容聞いてみて。
いくら、昼休み前に、


『ね、今度の週末のデートプラン立てたい。一緒にランチしよ』


……とか、なんとか言って食堂に行ったとしてもね。


「えー、だって、揉め事とか面倒じゃないですか。それでなくても女性の方が多いから、上手くやろうと思っていい人キャラでやってたんです。でも、自分のモテ具合を軽んじちゃって、こんなことに。休み時間のたびに囲まれて、全然休憩できなくて困ってたんですよ」


――実際話してる内容は、ちっとも恋人のものじゃないから。お願い、誰かちゃんと聞いてて。


「女嫌いなら、なんでうちに来たの……。まさか、本当に “女性用って可愛いじゃないですか” じゃないよね」


誰かに志望理由を聞かれて、桐野 亜貴はそう答えていた。
あれで、きゃあきゃあ言われて許されるのが本当に謎だ。
はっきり言ってドン引きしたから、よく覚えてる。


「あれね。もちろん嘘です。入社したのに大した理由ないから、適当に答えただけ。あれで引いて騒がれなくなるかと思ったら、余計にいろいろ言われて。逆にセクハラ受けた気分なんですけど」

「どっちも理解できない」


どっちもどっちだ。
別に働くのに大義名分なんて要らないけど、至極まともだと思っている自分の感覚は、ここではすごく浮いていた。


「そういう先輩は? なんで、ここ選んだんですか」

「……夢、だったからだよ」


ずっと、この会社で働きたかった。
ううん、ここじゃなくてもいいから、ランジェリーに携わっていたかった。
そう言うとすごく不思議そうにされることが多いから、私も適当に流すようになってしまったけど。


「なんで、って今聞いても、教えてくれなさそうですね」


私も同じだ。
わざと引かれようと思って、そんな言い方をしたのに。
引くこともからかうこともされずにそう言われたから、拍子抜けだった。


「……ねぇ、先輩。やっぱり俺、先輩のことが知りたいです。これは、本気」


(……馬鹿。しっかりして)


いや、正直に言えば、見惚れてしまっていた。
いつもの嘘くさい笑顔でも声でもない。
すごく自然に、しかもまだその段階じゃないと引っ込まれて驚いたと同時に、その微笑みを見つめてしまっていた。


「ねえ、週末どうしよっか。うちにする? このところ残業も多かったから、のんびりしたい? 今度公開になる映画、前作予習しとくのもいいよね。もちろん、どこか行きたいとこがあったら、一緒に行きたいし」

「…………」


側を同じ部署の人が通りかかって、急に声を大きくしてそんなことを言い出した。
ほら、絆されるな。
そもそも、そんなところ存在しないんだから。


(……なんで、あの映画が好きだってバレたんだろう)


そんなどうでもいいこと、気にする必要もまったくない。
どうせ、ただチェックしてるのを見かけたとか、そういうことだ。
私はただ、ほとぼりが冷めるのを傍観すればいいだけ。