一度唇を重ねたら、止まらないのは私の方だった。
「ん……ちょっと待って。続きがある。これを言わないで触れるのは狡いと思うから、言わせて」
不満そうにする私に笑って、少し身体を離した時には、亜貴くんは真剣な表情に戻っていた。
「俺は、本社に行こうと思う」
(やっぱり)
今の顔つきを見て確信したし、亜貴くんはきっとそうするだろうなと思っていた。
「知ってたよ。自分の決断で行くのはすごいと思うし、勝手だけど、やっぱり……寂しい」
「自分は辞めるかもしれないのに」
そうだよね。
でも、お互いのやりたいことをお互いが決め合うのは、やっぱり違うと思う。
「……その。決めた理由って」
「もちろん、家の為でもあるよ。兄貴を助けたいっていうのも、わりとある。でも、それ以上に、俺にもやりたいことできたんだよね。依花さんに触発されちゃった」
「……そっか」
よかった。
ただ、家やお兄さんの為だけの覚悟じゃなくて。
「ほら、男性用って、うちあんまり力入れてないから。もっとデザイン性もあってもいいと思うんだよね」
「どこもそうかも。シャツとかだと、あんまり派手だと透けて仕事に支障があったりするのかもね。あとは、単純に照れくさかったり」
「そっか。白シャツだとそうだよね。でも、前に期間限定で女性とペアのやつ出した時、反響あったって言ってた気がする。そういうの、別に一人で自分の好みで選べてもいいと思うんだ。俺は、あれ可愛いと思ったし」
確かに、亜貴くん似合うだろうな。
あの時は、どっちかと言うと女性を意識しての商品だったから、かなり可愛いデザインとカラーだった。
(……本当の着ぐるみみたい)
「誰とも着てないよ。もしまた似たようなの出したら、お揃いで着ようね」
「……な、何も言ってない」
図星を指された私に楽しそうに笑って、もう一度少し、腕が締まる。
「はー、言い終わってスッキリした。他に何か、聞いておきたいことない? 言っときたいこととか」
「何かできることがあったら言ってね。……私は、これからも亜貴くんと一緒にいたいから」
道を違えたんじゃない。
この人と、ずっと歩んでいきたい。
「もちろん。何かあったら、いつでも言って。うちは変わってるし、今後もいろいろあると思う。依花さんの元彼だって、また現れるかもだし。でも、二人でいられる道を選んでいきたいから。……今のところ、大丈夫そう? 」
「……? 不安なことはないけど」
言いたいことは、申し訳ないくらい言ってしまった。
亜貴くんの顔色も良くなったと思うし、何だか普段の小悪魔的な雰囲気が戻ってきたような――……。
「よかった。ちょっと、そろそろ辛かったんだ」
「ごめん……! 私ばっかり好き勝手に言って。何でも言っていいよ」
そうだよね。
年下感をわざとっぽく出してくることもあるけど、総じて亜貴くんは私よりもずっと大人だ。
こんな時くらい、傷ついたんだってぶつけてくれてもいい。
「何でもか。ありがと。ちょうど今ね、お願いしたいところだったんだ」
――そっちからキス強請っといて、熱が引くの早すぎじゃない? 俺、限界なんだけど。
「……していい……? お願い」
小首を傾げてお願いされて、軽く彼の胸を叩く。
「……馬鹿」
「えー。可愛いことする、依花さんのせいでもあるでしょう」
そうじゃないと首を振ると、想定外の反応が心配になったのか、指先がそっと顎を上向かせるけど、そうはいかない。
絶対、上目遣いなんかで見れない。
「……引いてない。私だって、待ってる……」
――今から恥ずかしくなるって分かってるのに。



