Secret mode〜後輩くんの見てはいけないトコロを見てしまいました〜






買ってくれた、ホットのカフェラテが美味しい。
いつの間に好みを把握されたんだろうと記憶を辿ると、何だかものすごく切なくなって、カップの蓋を見るのに集中した。


「ごめんね。本社異動の件、詳しく説明しなくて」

「ううん。最初に言ってくれてたよ。決断に時間かけるのは悪いことじゃないし、私の意見なんて要らない」

「ってことは、依花さんの意見は決まってるんだ」


支社と言えども超大手企業のここは、休憩室も巨大なカフェテリアだった。
休憩時間も各自で決めるスタイルで、お昼時を過ぎても人は少なくない。
こっちはどの部署の誰だか全然分からなくても、むこうは亜貴くんの顔を知っているらしく、結構な視線を感じる。


「……ちょっと、やり辛くなったのはあるんだよね。気を遣われるのが逆にストレスで、確かに “桐野ならもっと上手くやれよ” 感もあるし。何より、部内の雰囲気が微妙なのも居心地悪い」

「……うん」


以前もあったやっかみが、おかしな方向に行ったくせに戻ってきては亜貴くんを苦しめる。
私への陰口なんて、比べものにならないくらい辛いはず。
ただの仕事じゃない。
家族の問題でもあるし、自分のルーツにも関わるからだ。


「姉さんみたいに、放棄できるものなのか。放棄して、じゃあ他に何がやりたいのか。ずっと、考えることすら止めてたから。依花さんはすごいし、尊敬してる。そういうものが俺にはないし……それなら別に、このままここにいてもいいかなって思ってた。幸い、できなくもないし、弟であることは抜きにしても、そこまで向いてなくもないと思うから」

「それも、悪いことじゃないよ」

「でも、最近は、最低な言い訳も浮かんでた。本気で好きになった人と結婚するなら、ここはものすごくいい地位だって。安定して、それなりに余裕もあって。子どもがいても経済的には不安を感じずにいられる。……プロポーズもまだのくせに、最低で小さい」


それは、間違いじゃない。
愛さえあればで頑張れるほど、今のこの日本は楽じゃない。
ううん、どこの国だろうと世界だろうと、安定した生活は大切だ。
それが、一人のことじゃないなら尚更。


「レールの上は嫌だって思えるほど、他にしたいこともなかった。確かに、それも悪くない。恵まれてるけど、それを受け取らない理由もない。でも、ここに来てすごく迷ってる。……依花さん」


――もし、一緒に来てって言ったら。


「……迷惑かな。他に何もない俺の理由にされて、嫌かもしれない。それでも、何もかもどっちだってよかった俺が、唯一譲れないのは」


――あなたの側にいること。それだけは絶対、なんです。